籠鳥配列では「キーボードは左右非対称」であるという前提からキー位置の選定をしています。
それを説明するためにまずその前提について軽く触れておきたいと思います。
たとえばホームポジションを守った状態で人差し指をつかってタイピングするとします。
左手の場合「『F』に置いてある人差し指で『C』」を打つのは難しくありませんが、
その逆に右手で「『J』に置いてある人差し指で『、』」を打つのには遠すぎて無理がありますよね。
この例のように担当する指をまたいだキーの打ちやすさはさほど問題にはならないかもしれません。
ですが以下はどうでしょう?
『F』から右下にある『B』は遠いですが、『J』から左下にある『N』はさほどではありません。
『J』から左上にある『Y』は遠いですが、『F』から右上にある『T』はさほどではありません。
同じ人差し指担当のキーであっても左右で打ちやすさが異なるのがわかると思います。
以下の画像をみてください。
左右4つの円は同じ大きさで描かれています。
違うのは左側は0°右側は-15°と角度が異なるだけです。
赤は3段分の担当範囲を、青は最上段を示します。
そして紫色で塗りつぶされているキ-は、人差し指を最大に伸ばしたときに届く位置であり最も打ちにくいキー群です。
この角度はおおげさな例にすぎませんが、
籠鳥配列ではこのように右側をマイナス方向にずらした範囲を念頭に置いてつくられています。
籠鳥配列では優先度を低く見積もっているキー位置があります。
それはQWERTYでいうところの「Y」と「P」です。
それには理由があります。
端的に言うと「中指と薬指は上下に、人差し指と小指は左右に伸びやすい」ということです。
QWERTYのローマ字入力において「Y」が打ちにくいキーと判断されないのは、
右手の仕事が「U」「I」「O」に集中しているからです。
とくに右薬指は「O」専用といっても過言ではないほど仕事範囲が狭く、右手を浮かせやすくなります。
そうやって浮かせることが前のめりな位置取りを容易にし、右人差し指に仕事をさせやすくさせている。
だから、QWERTYのローマ字入力では「Y」が打ちにくいなんてことはないんですが、
右手の右側の仕事が少ないからこそ右手は大きく動く必要があるとも言えます。
逆にあまり手を大きく動かす必要がない配列にとっては、
QWERTYの「Y」の位置は「8」や「9」よりも指を伸ばさないと打てないほど打ちにくい位置なのです。
「@」は「P」よりもホームポジションから遠いにもかかわらずこちらの方が打ちやすく感じます。
それにはいくつか理由があります。
ここで注目すべきは小指以外の動きと位置です。
それぞれの指が近すぎると動きにくくなる要因となります。
ホームポジションでは「;」の位置に小指がありますが、上方向に伸ばすのはすこし無理があります。
指を前に持っていくと関節に負担がかかります。
肘から前の腕を前進させて届くのが「P」です。
小指は横方向には動きやすいですが上下には動きにくいため「P」は打ちづらいのです。
一般的なホームポジションであれば小指の横にあるのは「:」でしょう。
右肘を広げてみてください。
これはおおげさですが、「J」にあった人さし指は「M」に、「;」にあった小指は「@」にきます。
肘の角度により小指の横にあるのは「:」ではなく「@」となるばかりか、
準ホームポジションにすらなっちゃうわけで、意外と「@」の位置は打ちやすいんです。
そのため「P」は薬指兼小指の担当です。
一方この位置は翼の終端を意味し後戻りはできないということを暗示します。
左手で「できる」と打ちやすい一方で「るきで」は打ちにくいのと同様に、
流れる方向は中央下から上端へと向かうようデザインされています。
DVORAK配列にOEA配列の「P」「Z」キ-を取り入れたキメラなのはそのためです。
そしてこれがATOKの制限を回避するのにも適していたんですね。
単打で入力できる文字は母音以外に「をっくわができるん」があります。
以下のように分類できるでしょう。
単打に文字の頻度が高いものを並べたからといって速くなるわけではありません。
全体の打数が少なく済むとしてもバランスがとれず安定感に欠くのはこのましくありません。
なので単打には「しとかのなてた」などの超高頻出文字は入れませんでした。
採用している文字はどれも頻出度合いでいえば10位以下です。
「わ」は頻度でいえば少ない方です。
これよりも頻度の高く漢字によく登場する「ち」や「つ」などを単打で配置することも検討しましたが、
それらは終わりに来る音であり「わ」の位置ではリズムが悪くむしろ遅くなるという結論に至りました。
(「わ」はお嬢様口調を除けば、始まりにくることが多いですわ。)
逆に「が」の頻度は多いですが、これにより「ガ行」キーを押す機会をごっそり奪えるため、
人差し指をあまり上方向に伸ばさずに済むようになります。
右手は同手打鍵は省入力が多数ありせわしないですが、
左手の同手はそれと比べれば少なく済むため、打鍵数を打鍵範囲に回すことにしました。
範囲を広くとっているといっても、最上段をまったく使わなくても問題なく文章を打てます。
多少楽に打つために最上段を使ってもいい。というていどの認識でかまわないでしょう。